フィリップ、詩人になる、の巻 - ジンジャーの薫り・・・仏田舎手帖

フィリップ、詩人になる、の巻

  • 2014.03.22
(もうおわかりいただいていると思いますが、また長文です


フィリップは、スーツケースを開けるやいなや、カリスマ教祖のような女性の特大写真を真っ先に部屋に貼り、我が家に来た当日に「母はボクのアイドルであり女神であり崇拝する絶対的な存在なんです。」と宣言しました。
だから、僕ら兄弟は母と一生一緒に暮らすし、仕事も一緒にするし、お墓までも一緒について行く。と言う16歳の男の子を前に、私は正直、得体の知れない不気味ささえ覚えました。(これもカルチャーの違いなのかもしれません)

これほど母を慕っているのに、ビジネスで忙しい母からの愛情にも飢えていて、よく母親の話をしながら涙ぐんでいました。
「いつまでも私に従順なスイートな息子」であるよう母からのメッセージが来ると、嬉しいと同時に葛藤し、それに逆らわずにいられるかどうか不安を覚えるフィリップがいました。

「このところ、毎晩母はボクのベッドで寝ているんです。」と、ある日とても嬉しそうに私に言いました。
「え、なんで?」(部屋の模様替えとか引越しとか?)と思って聞き返すと
「ボクがいなくて寂しいから、ボクを想いながらボクのベッドで寝ているんだそうです。」と言う時、母の自分に対する愛を確認できるように、自慢そうなのでした。
・・・私は返す言葉が思い浮かびませんでした。

母親に対する複雑な愛情で心も頭も一杯のフィリップ、毎晩のように母を想い、涙ぐみ、おそれ、反抗し、愛し、敬い、怒り、慕い、悲しみ、と日変わりで心情も変わり、そのたびに思い出話もめまぐるしく変わりました。
「母は料理を一切しない・・・晩ご飯も一緒に食べたことがない・・・」と言ったかと思うと、翌日は「母は料理がうまくて、同時に2ヶ所で作ったりする腕前なんです!」と言い、(あれ?昨日と言ってることが違うじゃん??)ということもしょっちゅうでしたが、私は心理カウンセラーホストとしては及ばずながらその全部を聞き入れるだけでした。それが本当の話かどうかは別として、ひょっとしたら妄想やフィクションが入っているかもしれないけど、彼にとってはそれが真実なのだろうと聞きながら、この少年がどれほどの心の痛みを持って彼女を想っているか、その子供心を感じたら涙が出てしまいました。このとき彼も涙を流し、涙が尽きるまで何時間も話してくれたことがありました。

そのときです、「周囲の期待が大きすぎて、ボクは何をしたらいいのかわからない。みんなが誇りに思っているボクは、本当のボクじゃないんだ。みんなが見ているのは、いい子に作り上げたイメージなんだ。ボクはみんなが思っているような人間じゃない。だから、本当にみんなを喜ばせるためにフランスで何をしていいのか・・・さっぱりわからないんだ・・・。」と話してくれたのは。

みんなが思ってるような良い子じゃない・・・そんなこたぁ、私ら家族全員知ってまっせ。
なんも目新しいことありまへんで。
外では偽の自分を演じてるのも、私らにはぜんぶ丸見えでっせ、若旦那 
だって来る前にもらった履歴書は素晴らしいものだったけど、目の前で暮らすあなたは別人だったもの。

とは、言わず。
本人が自分で話してくれたことが大切なのですから。

「フランス語は、フィリピンに帰ったら二度と使うことはないだろうし、フィリピンの学校を卒業したら母の会社で働くことは決まっているからここで勉強したって何かの役に立つわけじゃない。ボクがここにいるのは何の意味もないことだと本心では思う。でも・・・・・両親を喜ばせるために、ちゃんと授業に出席してフランス語を勉強しようか・・・・・と・・・おもう・・・。」
最後は自信がなさそうに言いました。

両親を喜ばせるために勉強できる子なら、とっくの昔にしているだろうよ。
それがモチベーションにならないから、こういうことになっているんでしょ。
留学のために周囲がどれだけの準備をしてくれたか、本当に実感できて動ける子なら、すでにやっているよ。
でも、どうやっても人のためには体が動かない。言いなりになれないほど自我は強力で、両親の意向とは違うところにある。それが現実の君なのだよ。
だからその現実の自分を解放してあげないと、何も始まらないよ。

それで、「あなたは、体はここにいても、心はフィリピンに縛られていてここにいない。家族や周囲の期待はすべてフィリピンに置いておいて、そこから離れてみたら。今は与えられたこの一年を自分へのプレゼントだと思って、自分だけのために使ってごらん。将来の自分の人生のための投資だと思って、本当にしたいことを見つけるために過ごしてみたら。」
と私は言ってみました。

「自分のために・・・・」
とフィリップは、ハッとしたように呟きました。
「そんな風に考えたことはなかった!

いや、だからね。授業を逃げ回ってウソついているとき、君は自分のことしか考えていないんだってば。
だけど、自覚はないのかな。
そぐわない期待が肩に重くて、ただただどうしたらよいかわからない。その場をやり過ごすしかない、という感じなのかもしれません。

「自分のために過ごしてみる。」と言ったとたん、
心が軽くなった様子のフィリップは、その翌日、目をキラキラと輝かせて学校から帰宅しました。

「今日、ボクは授業中になぜかが浮かんだんだ・・・詩なんて書いたのは生まれて初めてだよ。でも、なぜかひとりでに浮かんできて、ノートの端にメモしたんだ。・・・見たい?」

と、ちょっとはにかんだように私に提案してくれました。

「見せてくれるのなら、もちろん!」

と言うと、一枚の紙を取り出して渡してくれました。

それは、物理の授業時間に黒板を書き取った(無味乾燥で面白くもなかったであろう)バインダーノートの端っこに、小さな文字で踊るように書かれた英語の文字でした。
それを見ながら、嬉しそうに読んでくれました。



いとしい人よ、美しい君よ、

君はどこにいるの?

本当にいるの?

この世界のどこかで、

ボクを待ってくれているの。

ボクは君を探し求めている、

早く現われて、

ボクを助けて。

君のもとで、ボクの心の重荷をすべて下ろさせて

君のもとで、ボクを癒させて

いとしい君よ、美しい人よ・・・


「いいじゃないの!よく書けているよ!」と私は心から言いました。

「ボクはフランスに来てよかったのかな、と思います。フィリピンにいる時は、母に認めてもらうためにいつも忙しく活動していてじっくり考えるということがありませんでした。でも、今は時間がたっぷりあるので、物事を深く突き詰めて考えることが出来るような気がします。。。物事を深く考えるのはボクに合っているような気がします。」
とフィリップもその気になって言いました。

「これからも思いついたら書きとめておいたらいいよ。書くってことは、テラピーの効果があるのよ。人には言えない気持ちも詩にしてみたら。専用のメモ帳を持って歩いたらいいと思うよ!」

と私はすっかり高揚した気分で言いました。きっと、その美女は彼をがんじがらめに母親と繋げているへその緒から離してくれる存在なのでしょう。
いわば彼を自立へと導いてくれる解放の女神としての象徴でしょう。

買いだめてどこかにしまってあった未使用の手帳かノートをあげようと思って、しばらくガサゴソと探してみましたが、見つかりませんでした。
でも、ひゅるる~ひゅるる~と音を立てていた虚しさが、満たされていくような感覚でした。あぁ、よかった・・・・、これでこの子はもう前向きになれる・・・。

フィリップは夢見るように続けました。

「物理の時間にディープに物事を考えていたら、美しい女性の顔が浮かんだんです。この女性がボクの運命の人だったらいいな~と思ったんです。
本当にいつか現われるのかな・・・。世界のどこかにいる美女とボクはいつか一緒になれるのかな・・・って。


その金持ちの彼女が、ボクを世界旅行に連れて行ってくれないかな。。。」




















   ・・・・・ズリッ  (←思いっきり、コケた私)




・・・どこがディープなんだ・・・・・満たされた気持ちはザザザと容赦のない音を立てて、引き潮のように引いていく・・・

やっぱり何か、虚しさがよみがえってくる・・・なぜだろう・・・

このヒモ体質・・・なんとかならんか・・・



キミの非の打ち所のない人懐こい笑顔で、金持ちの老女ならコロコロ騙せる、とホストマザーの本音としては保証書を発行してもいいくらい確信できるけど(大嫌いなおじいちゃんの所へはお金が欲しいときだけ会いに行く、と言っていたから、男女関係なく老人なら大丈夫)。やっぱり美女も金持ちじゃないとダメなのねぇ。


これが、「フィリップ滞在3ヶ月目の転機」の一部で、この後一ヶ月はちゃんと学校に行っていました(まぁ、転機と喜んで書きましたが、結局一ヶ月半しか持ちませんでした。笑)。


詩を書いたのは、結局これ一回きりのようですが ・・・ (手帳、見つからなくて良かったよ



こうやって日々を乗り越えながら、ついこの間はスペイン旅行とスキー旅行に行って大いに満喫した様子、フランス滞在も残すところあと3ヶ月まで漕ぎ着けました。

フランス語も大分上達したようです。

人それぞれに進歩。

だけど、人の体質は変わらない(笑)。

ホストマザー修行もあともうちょっと。



(まだまだ続きますよ
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