フランス留学はつらいよ(メキシコ君、いらっしゃい3) - ジンジャーの薫り・・・仏田舎手帖

フランス留学はつらいよ(メキシコ君、いらっしゃい3)

  • 2014.02.03
メキシコ君、いらっしゃい2 仰天の続き・・・)

メキシコ君は嬉しそうに目を輝かせて、ピンクシャンパンを手にして、張り切った様子で私の前に来ました。
「もう一泊させてくれて、本当にありがとう!あなた方と一緒に誕生日を祝えて嬉しいです!これどうぞ!」

このように、留学生から「感謝の気持ち」を表してもらったことは初めてで、予想もしなかった反応に、私は衝撃を受けてしまいました。
フィリップは毎日毎日何をしてあげても、沼の底に音も立てずに沈んでいくような感触で、「甲斐」というものが全く感じられない日々が延々と続いていましたので、そうじゃない子を目の前に私は雷に打たれたように驚いてしまいました。

「そんな風に言ってくれて、私も嬉しいよ!でも、こんなに高いものを買ってきてくれることはなかったのに。」
と感激して言うと、
「いや本当に嬉しかったから。」
と言って、バス停で私の「OK」のメッセージを受け取ったときのことを話してくれました。

それで晩ご飯には、急きょ簡単なバースデーケーキとロウソクを用意して、もらったシャンパンも一緒に飲むことにしました。
もちろん彼らのは乾杯用のご愛嬌の一杯です。

「このシャンパンいくら?」と、フィリップがメキシコ君に尋ねました。人へのプレゼントの値段を聞かないでくれ。と思っていると、メキシコ君
「このシャンパン、フランスではメキシコより安いから大丈夫だよ。メキシコではもっと高いし、なにしろオレは毎週1本彼女にプレゼントしてるんだけど、フランスに来てから買ったのは今回が初めてだからね!」



・・・え?! 毎週1本?!

「あなたの彼女って、いくつ?」

と私が聞くと、

「1歳下。」

・・・16歳ってことね。

「両親は彼女のことがすごく気に入ってるんだ。彼女は酒を飲まないからね。」

「?・・・シャンパン飲むじゃないの、毎週1本!」

「シャンパンは酒じゃないよ。それは別だよ。」

じゃぁ何なのか?

「彼女の両親の前ではオレは酒を飲まないで真面目にしてるんだ。だから、真夜中に彼女を家に送り届けて、ご両親に挨拶をするまで一滴も飲まないよ。送り届けた後に朝まで飲むんだ!」

「メキシコでは、毎日ディスコにも行けるんだ。朝までいて、ホテルに泊まって仮眠して、また昼から行けるディスコがあるんだよ。ここではそれがないから、辛いよ。留学生活は、ほんと辛いよ。」

「年齢制限があるだろう?」と夫が聞くと

「入り口のガードマンにチップを渡して、『中で酒を注文して金たっぷり使うから、入れてよ』って言えばすぐに入れてくれるよ。」


この辺りで十分あっけに取られて、口が開いたままになってしまっている私たちでしたが、メキシコ君はさらに嬉しそうにタブレットを取り出すと、写真を見せてくれました。

「これ、オレの1台目の車。とーちゃんが買ってくれたんだけど、事故ッちゃって。」

写真には、ものの見事にグシャッとなった高級車。

「で、2台目の車を買ってくれたんだけど。これも派手に事故って。相当酔っ払ってたから、オレが悪いんだけどさ。」

またしても、前部分大きく破損。

「怪我しなかったの?大丈夫だったの?」と思わず聞くと

「車だけだよ、オレはなんともなし。」

「で、これが3台目。来る前にやっちゃったんだ。電話で話してて、一瞬画面を見ていたら、前の車にぶつけちゃったんだ。」

と、半分のサイズになった車の写真。

「最初は警察に手錠かけられてたんだけど、とーちゃんが来て、金払って解決さ。警官のおじさんが被ってた帽子も記念にもらっちゃったよ~。」

「オレの息子だったら、とっくに殺してる。」と夫。「車を壊して平気なんて、二度と買ってやらないぞ。」と言うと

「メキシコじゃ、タクシーに乗ったら運転手にボコボコにされちゃうことが多いんだ。だから危険だから、自家用車を持ってた方が安全なんだよ。でもここじゃ運転すら出来ないから、辛いよ。」

相槌を打つにも絶句していると、メキシコ君、総まとめの一言。

「メキシコは何でも金で解決できる、って言われてるけど、その通りさ。警官だって、誰だって、金さえあればこっちのもんだ。でも、フランスはそうじゃない。スピード違反にしても、金でなんとかならない。だから、フランスってすごく住みにくいよ!規則は規則で・・・そんな生活は辛いよ!オレはやっぱり、メキシコのほうがいいな。金で解決できる方がずっと便利だもん。」

「・・・いや、それは・・・・あなたが『金持ち側』にいるから言えるんでしょう。そうじゃないに人は、不公平で住みにくいと思わない?」と私が言うと

「まぁね。」
と一言で終了。

「とーちゃんだって、昔は今ほど羽振りがよくなかった時期もあったんだ。汚職の疑いで刑務所入れられてた時。でも、その後、敵対していたヤツが逆に刑務所入れられて、それ以来良くなったんだ。今はとーちゃんは、犯罪人から金もらって刑務所から出してやる仕事をしてるんだ。すごく金になるんだよ。払えないヤツは担保に高価な金ピカの拳銃を渡してくれたこともあるんだぞ。」

と、その拳銃の写真も見せてくれました。

まるで、プチギャング映画を見ているような・・・・・

まさか、こういう理由で留学が辛いとは・・・。
海外に来て生活に慣れるのは大変だろう、と誰もが想像しますが、生活に慣れるレベルが違う・・・。


私と夫と彼ら2人に注いだピンクシャンパンは(ナナはもちろんジュースですから)、彼らのグラスからはものの2秒でなくなっており、夫がお国のものを一目見せるために出してきたテキーラを、「これは、こうやって飲むんだよ!塩ある?」と塩を舐めながらクイクイと一気して実演してくれるメキシコ君、真新しい瓶を空にする勢いです。そして、テキーラ入りのビールを恍惚としてのどに流し込むフィリップ。 

ス、ストーップ!!!


「でもさ、お金でそんなに簡単に人が動くなら、どうやって人を信用できるの?」と私は聞いてみました。

「えっ、信用?あぁ、メキシコ人はメキシコ人を信用してないよ。信用できないよ。」

うーむ、フィリップがフィリピンについて言ったことと同じセリフだ。

「でも金があるからいいんだよ。」

堂々巡りだ・・・。


「メキシコ君は将来何になりたいの?」と聞くと

「エンジニア。」

・・・・ほ、ほんとか?

「無理だろ~、勉強しないとなれないんだよ~?」

と思わず私たちは口を揃えて言ってしまいましたが、

「えっ、そう?」と意外そうな顔。

あ、ひょっとして、お金払ってなれると思ってる?

「でもさ、一番いいのは、とーちゃんが貸してる家があるんだけど、あぁいうのがいいよな。働かないでも金が入ってくるもん。とーちゃんにもらって、それで生活していきたいよ。」

・・・とーちゃんがまた刑務所に入れられたら、アンタもおしまいなんだよ。何とかしなくていいのかい?

「オレはとにかくメキシコに帰りたいけど、とーちゃんはこのままフランスにいろ、って言うんだ。
オレはそもそも、留学なんてしたくなかったんだ。ずーっとメキシコにいたかったんだ。」

はぁ、フィリップと同じね。

「でも、どうしても留学しろ、って言うから、ブラジルならしてもいいよ、って言ったんだ。祭りと遊びで有名だからね。愉快な一年を過ごせるから、ブラジルがいい、って。そうしたら、とーちゃんはフランスに決めてきちゃったんだ。オレは不良学生だから、罰でここに来させられたんだよ。とーちゃんはオレに変わってほしかったんだ。」

ほんとにまぁ、率直なことで・・・メキシコ君はウソがなくて気持ちがいい(笑)。


「で、変わったと思う?変われそう?」と聞いてみました。

ここは小さくても「町」ですから交通網もありフィリップは友だちと簡単に出かけることができますが、メキシコ君がステイしているのは田舎のど真ん中で、交通手段もなく教会以外は一軒の店もなにもないところです。それでこうしてウチに遊びに来ると、町に繰り出せるのが嬉しいわけです。まっとうに暮らしている人間ですら、外出がままならない田舎暮らしは大変なのに、ハチャメチャ暮らしのメキシコ君がよくもまぁ耐えていること・・・と、半ば感心しながら聞いてみました。

「うーん、変わってないよ。変わんないと思う。」と返ってきました。

「いやいや、自分では気がついていないが、君は変わり始めている!何かが変わっているはずだ!もう君は以前のメキシコではなくなっている~。マジメなメキシコになっている~。」
と夫はメキシコ君に催眠術をかけるように言って、私も彼なら変われそうな気がしたのですが。でも本人がここで変わっても、社会が変わらなければ国に帰ればまた同じになってしまうのではないでしょうか。

メキシコ君がフランスや日本のような国に生まれて、一般家庭で育っていたら、ラグビー部やサッカー部の頼り甲斐のある主将になるような子だったかもしれません。ひょっとしたら、立派なお相撲さんになってたかもしれません!逆にうちの子達だって、汚職が普通に行われている国でそれを目の当たりにして金という権力を手にして育っていたら、プチギャングになっているかもしれません。
人が1人、どこで生まれるか、どんな環境で育つか、どんな親元で育つか、それによって天と地ほども違う人間ができあがる・・・
この子を目の前にしながら、そんなことをものすごく感じていました。


結局2人とも、言葉が違っても気が合ったのは「同じ穴のなんとやら」で、自国での環境も「遊んで金儲けしたい」価値観もすごく似ているのでした。
金持ちのドラ息子で遊び好き酒好き。フィリップも、実は11歳の頃から隠れてお酒を飲んでいて、フランスに来るのに一番心配だったのは「毎日酒を飲めないことに耐えられるか」だったのだそうです。
アル中かい!
確かに、アルツハイマー並みの彼の記憶力に心配になったことも度々ありますが、若いときのアルコールが脳に影響しているのではないでしょうか?


でもメキシコ君がガンガン直球を投げてくれたおかげで、私たちもフィリップのことが少し理解できました。
ズル休みも出来るし遊び暮らしていたフィリピンと違って、
「朝学校に行って、一日授業を受け、夕方戻ってきて宿題をし、お酒も飲まずに家族でご飯を食べて、寝る」
という私たちにはごくごく普通の毎日が、彼にはとてつもなく合わせることが難しい規則なのかもしれません。その生活落差というものがどれだけのものか、私たちには想像も絶するくらい大きいのかもしれません。でもせめてこの一年、真正面から向き合って経験することが、留学の意味だと思うのですが、彼はコソコソと逃げ回ってばかりいますが。。。

メキシコ君はそう言いながらも、ウソをついて逃げないところ、学校にもサボらず出席してフランス語を学び、「罰の一年」を前向きに頑張れる覇気がある、というところがフィリップと全然違うところです。

「お父さんに、シャンパンご馳走様、って伝えておいてね。」
と言うと、「買ったのはメキシコだよ。」と夫が言いましたが
「いや、でもとーちゃんの金だから。」
と、ちゃんとわかっていたメキシコ君でした。

いやはや・・・・・なんともエキセントリックな誕生会でした。

結局なんだかんだ言って、ナナの友だちも泊まりに来て、ついでに一週間泊まっていったメキシコ君。
「高校生」と言っても、国が違えばこんなにも違う青春を過ごしているのか・・・と、まざまざと紹介してくれて去ったのでした。


各国のフツーの高校生を経験して、国際交流をする」のがこの留学の目的ですから、これで・・きっと・・・いいのかな




長くなってしまいましたが、読んで下さって、ありがとう・・・・・・バタッ(←倒れる音。笑)
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